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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)890号 判決 1963年2月26日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所へ差戻す。

理由

上告代理人鈴木義男、同河野太郎の上告理由第二点について。

原判決は、上告人の予備的請求の当否を判断するにあたり、訴外岩手殖産銀行が被上告銀行に対し送金受取人である上告人に支払をなすべきことを委託した事実を認めながら、右訴外銀行と被上告銀行間に締結されている電信為替取引契約書(乙二号証)第四条に「電信送金為替ハ前条ノ取組通知ニ符合スル電報送達紙ヲ呈示シタル者ヲ本人ト看做シ之カ支払ヲ為スモノトス」とあり、第五条に「電信送金為替受取人ニ対シ被仕向店ニ於テ保証人ヲ立ツルコトヲ請求シタル場合相当ノ保証人ナキトキハ其ノ支払ヲ拒絶スルコトアルヘシ」との条項があることを理由に、本件電信為替契約上において被上告銀行は送金受取人として指定された者に対して必らず支払を為さなければならないものでなく、却つて電報送達紙の呈示を必要とし、又保証人を立てることを要求しうる以上、右契約は被上告銀行の岩手殖産銀行に対する関係においても被上告銀行が上告人への支払義務を負担していたものとは認められない、換言すれば岩手殖産銀行と被上告銀行との間の支払の委託は、岩手殖産銀行の計算において支払をなしうる権限を与えたに止り、特定人たる上告人に対する支払義務を課していたものではない、と判示していること所論のとおりである。

しかしながら、電信為替取引契約に基づき仕向銀行から指定受取人に支払うべきことを委託された以上、被仕向銀行は、仕向銀行に対する関係において、指定受取人に委託金を支払うべき義務を負担することは当然であつて、前示条項は指定受取人の送金受領のための方式乃至手続を定めたものであり、被仕向銀行にとつては一種の免責約款のはたらきをするものと解するのが相当であつて、同条項があるからといつて被仕向銀行たる被上告銀行が、仕向銀行たる岩手殖産銀行に対する関係において、指定受取人たる上告人に支払をなす義務を負わないとは到底解することをえない。

されば、この点において原判決には法律行為の解釈を誤つた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決を破棄し、更に審理を尽さしむるため本件を原審に差戻すべきものとする。

よつて、その余の論点に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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